社会や環境から受けるストレスは抑うつや不安亢進、認知機能低下を誘導し、うつ病などの精神疾患のリスク因子となる。うつ病患者の血液検体や脳画像イメージングを用いた臨床研究により、うつ病と炎症の関連が示唆されてきたが、その役割は不明であった。我々はマウスうつ病モデルとされる慢性社会挫折ストレスを用いて、慢性ストレスが内側前頭前皮質のミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインを放出してうつ様行動を誘導することを示してきた。ミクログリアにはサブタイプがあることが知られるが、ミクログリアのサブタイプによるストレス応答性の違いを調べた研究はない。そこで我々は一細胞RNA-seq解析を用いてミクログリアのサブタイプを可視化し、各サブタイプが慢性社会挫折ストレスによりどのように変化するかを解析した。CX3CR1-EGFPマウスの内側前頭前皮質からミクログリアを含むEGFP発現細胞をFACSで単離し、Chromiumによる一細胞RNA-seq解析に供した。その結果、ストレスを与えていない対照群のマウスでは、遺伝子発現のパターンから、貪食能の亢進が推測される貪食関連ミクログリア、恒常性の維持への関与が推測される恒常性関連ミクログリア、免疫応答への関与が推測される免疫応答関連ミクログリアに大別され、それぞれに遺伝子発現の異なる複数のサブタイプが観察された。慢性社会挫折ストレスにより、貪食関連ミクログリアに含まれる一部のサブタイプは増加し、恒常性関連ミクログリアに含まれる一部のサブタイプは減少した。慢性社会挫折ストレスによるうつ様行動の度合いを指標として、ストレス感受性群とストレス抵抗性群に分けて解析したところ、ストレス感受性に応じて挙動の異なるサブタイプも認めた。これらの結果は、内側前頭前皮質ミクログリアには機能的に異なる複数のサブタイプが存在し、サブタイプごとに慢性社会ストレスに対する応答性が異なることを示唆している。