【背景】複数の双極性障害患者において、細胞間接着を媒介するカドヘリンスーパーファミリーのひとつであるプロトカドヘリン15(PCDH15)遺伝子の欠失が見出されている。双極性障害などの精神疾患では、アミノ酸神経系のバランス異常が認められるが、精神行動の発現との関連については詳細に検討されていない。本研究ではPCDH15欠失がマウスの精神行動および神経伝達系に与える影響について、行動学的および神経化学的に検討した。
【方法】8~10週齢のPCDH15欠失マウスにおける自発運動活性、断崖回避試験での断崖回避反応、および受動的回避試験での反応潜時を調べた。PCDH15欠失マウスの脳内グルタミン酸、グルタミンとγ-アミノ酪酸(GABA)の含有量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。また、アミノ酸の生合成酵素のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)とGABAトランスポーター(GAT)の脳内タンパク質発現量は、ウエスタンブロット法を用いて解析した。
【結果および考察】PCDH15欠失マウスでは、野生型マウスと比較して、自発運動活性の増加、断崖回避反応の低下や受動的回避反応の亢進が認められ、衝動性や恐怖記憶が増強していた。これらの表現型は双極性障害の症状に類似していた。また、PCDH15欠失マウスの側坐核では、GABA含量やGADタンパク質発現が野生型マウスのそれらより増加しており、GABA神経が亢進していた。以上の結果から、PCDH15遺伝子の欠失は、GADタンパク質の発現を変化させ、GABA神経機能に異常をきたすことで、その異常が双極性障害の発症に関与していることが示唆された。