目的
胎生期の重篤な感染症が子の精神疾患発症リスクを高める。妊娠マウスにウイルス感染様免疫応答を引き起こすpoly I:Cを処置すると、生まれる仔マウスにおいて行動障害が認められる。このような行動障害は仔から孫へと継承されることが報告されている。また、統合失調症患者の死後脳において、GABA作動性神経の数が減少することが分かっている。そこで、本研究では胎生期にpoly I:Cを曝露された仔マウスの行動学的解析およびGABA作動性神経関連分子の評価を行った。さらに仔マウスの表現型が孫マウスへと継承されるかどうかについても検討した。
方法
C57BL/6N妊娠マウスにpoly I:C(20 mg/kg)を妊娠12日目から5日間連続で腹腔内投与し、得られた仔マウスをF1、雄性F1マウスと無処置雌性マウスの交配により得られた孫マウスをF2マウスとした。マウスが8週齢となった時点から、新奇物体認知試験(NORT)を行った。NORT終了後、海馬におけるGABA作動性神経関連分子について免疫組織化学的に調べた。その中でも今回は、神経発火のタイミングを制御しているparvalbumin(PV)、興奮性シナプスの入力を調節しているsomatostatin(SOM)および神経発達や認知機能に関与するReelinの発現を調べた。
結果
NORTにおいて、胎生期にpoly I:Cを曝露されたF1マウスおよび雄性F1マウス由来のF2マウスは、コントロール群と比較して、物体認知記憶を低下させた。免疫組織化学染色の結果から、胎生期にpoly I:Cを曝露されたF1およびF2マウスにおいて、海馬CA1領域におけるPV陽性細胞数が減少、海馬DG領域におけるSOMおよびReelin陽性細胞数が減少した。ReelinはSOM陽性細胞から分泌されることが分かっている。そこで、SOMとReelinとの共局在についても調べたところ、胎生期にpoly I:Cを曝露されたF1およびF2マウスは海馬DG領域において、SOMとReelinが共局在する細胞数を減少させた。
考察
本結果から、胎生期poly I:C処置は、海馬におけるGABA作動性神経系を障害し、物体認知機能障害を引き起こすことが示唆された。さらに、これらの変化は、父親を介して次世代へと継承されることが示唆された。