筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は、大脳皮質運動野に存在する上位および脊髄前角や脳幹部に存在する下位運動神経の選択的変性と脱落によって、全身の骨格筋の筋力低下と筋萎縮を呈する進行性の神経変性疾患である。多くは孤発性であるが、5〜10%は遺伝性に発症し、これまでに20種類以上の原因遺伝子が同定されている。最初に同定されたSOD1遺伝子は、活性酸素種であるスーパーオキシドを過酸化水素に変換する酵素をコードし、SOD1遺伝子の優性変異によりALSを発症する。ヒト変異SOD1タンパク質を全身に過剰発現するトランスジェニックマウス(変異SOD1マウス)は、ALSの病態をよく再現するモデルとしてALS研究に頻用されている。また、このモデルは、変異によるSOD1の酵素活性の有無に関わらずALS病態を示すことから、変異SOD1タンパク質が、何らかの神経毒性を獲得していると予想されている。これまで、ALSの病巣で観察されるグリア細胞の活性化は、運動神経の変性に付随した二次的なものと考えられてきたが、グリア細胞特異的に変異SOD1を除去できるモデルマウスを用いた研究により、グリア細胞に発現する変異SOD1がグリア細胞にも病的変化をもたらすことが明らかになり、「非細胞自律性の神経細胞死」という概念が提唱され、近年、グリア細胞に着目した研究も盛んに行われている。さらには、近年の研究により、免疫細胞の関与も報告されており、運動神経のみならず、運動神経の周囲に存在する非神経細胞に着目したALSの病態メカニズムの解明および治療法の開発も期待されている。本講演では、非神経細胞であるグリア細胞と免疫細胞に着目した最近の我々の研究についてご紹介したい。