神経疾患のうち、脳血管疾患は、我が国が直面する大きな課題の一つである。近年の寿命の延長に伴い、脳血管疾患の発症数は年々増加傾向にある。脳梗塞に対する超急性期の血栓溶解療法や血栓回収療法による治療法が進歩しているものの、これらの治療が可能な患者は脳梗塞全体の10%前後と限られている。脳血管疾患は、心疾患と合わせると日本人の死因の第1位であり、後遺症が残ることも多く、要介護の原因としても認知症と並んで最も多い。このことにより、脳・心血管疾患が、医療費の増大や健康寿命と平均寿命の乖離を引き起こし、社会問題となっている。
脳内に存在する神経系、グリア系、血管系細胞(神経グリア血管単位)と、免疫系システム、血液脳関門(blood brain barrier, BBB)やリンパ管系を介した脳外細胞との多面的な細胞間相互連携により、脳恒常性が維持されている。神経疾患においては、疾患特異的な各細胞種の形質変化と細胞間相互作用の破綻が、発症や進行に関与すると考えられる。
脳内の細胞種のうち、オリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cell, OPC)がオリゴデンドロサイトの供給源という役割を超えて、脳内外の血管系・グリア系・神経系・免疫系との相互作用により、多彩な役割があることが報告されつつある。血管周囲に存在するOPCs(”Perivascular OPCs”)が、発達段階においてBBB形成に関与する一方で、脳虚血病態ではBBBを破壊するサブタイプに変化することも見出されている。本発表では、脳梗塞におけるOPCの形質変化と病態への関与について紹介し、新規治療への応用可能性についても議論したい。