幹細胞技術の進歩を再生医療へ応用することが期待されている。パーキンソン病(PD)は2番目に頻度の高い神経変性疾患であり、細胞移植療法のターゲット疾患の1つである。PDに対する細胞移植治療では中脳型ドパミン神経前駆細胞を移植ドナーとして用いる。1980年以降、中絶胎児組織を用いたPDの細胞療法が行われてきた。症例を選べば有効であることが報告されてきた。しかし、胎児の組織を用いた治療には、ドナー供給の制限、質の不安定性、倫理的側面などの問題がある。また、米国で行われた二重盲検試験では期待された有効性が示されなかった。iPS細胞等、多能性幹細胞を用いれば理論上無制限にドナー細胞を供給でき、量と質の問題を解決できる可能性がある。我々はヒトiPS細胞から臨床グレードで使用可能なドパミン神経前駆細胞誘導のプロトコルを確立した。げっ歯類および霊長類のPD動物モデルを用い、これらの細胞の安全性と有効性を確認した。これらの非臨床研究に基づき、パーキンソン病を対象としたiPS細胞由来ドーパミン作動性前駆細胞を移植する医師主導治験を2018年から行っている。本治験では移植後2年間の経過を観察する予定である。健常人由来のヒト白血球抗原(HLA)ホモ型のiPS細胞ストックを用いて、ドナー細胞の分化誘導を行っている。本治験ではドナー・ホスト間のHLAの意図的な適合は行っていない。代わりに全例で免疫抑制剤を併用している。効果判定は臨床症状の推移とMRI, PETによる画像評価で行う。
移植後の免疫反応の研究などを含め、最近の研究と今後の展望について紹介する。