認知症の原因疾患の大部分を占めるのがアルツハイマー病であるが、現時点で有効な治療法は確立されていない。病初期から強い記憶障害を呈するアルツハイマー病の臨床経過は、内側側頭葉から始まり脳内を定型的に広がる神経原線維変化(タウの細胞内凝集体)の進展様式とよく相関する。タウ病理が神経線維の連絡に沿った脳領域を進展するという病理学的知見と、細胞外タウが細胞内に取込まれて新たな凝集体を形成するという実験系から得られた知見を背景として、「タウ伝播仮説」が唱えられるようになった。タウ伝播の具体的なメカニズムは未解明の部分が多いが、アルツハイマー病の定型的な進行様式を説明する病態仮説として、また新たな治療標的として注目を集め、現在精力的に研究が進められている。
 どのような種類のタウがどのような形態で細胞外へ放出され、どのような機構で次の神経細胞へ取り込まれて新たな病理を形成するのか。どのプロセスが診断や治療法開発のターゲットとなるのか。本演題では最近の研究結果を交えながら、アルツハイマー病の病態をタウ伝播の観点から考察し、新規診断・治療法開発に向けた展望と課題について論じてみたい。
【参考文献】
Wesseling, Takeda, et al. Cell 2020
Takeda et al. Nature Communications 6:8490, 2015
Takeda et al. Annals of Neurology 80(3):355-67, 2016
Takeda et al. Neuroscience Research Vol.14, pp36-42, 2019
Takeda et al. Frontiers in Neuroscience 2019
Takeda et al. American Journal of Pathology 187(6):1399-1412. 2017
武田朱公 『医学のあゆみ』 Vol.273 No.1 2020 pp23-27
武田朱公 『実験医学』 Vol.35 No.12 2017 pp210-215