目的 
最近の臨床研究から、幻覚薬のシロシビンが、治療抵抗性うつ病患者に対して、即効かつ持続的な抗うつ作用を示すことが明らかとなった。さらに、シロシビンなどの幻覚薬は、大脳皮質の視覚野第Ⅴ層のセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2AR)を刺激し、幻覚作用を誘発することがわかっている。しかしながら、抗うつ作用におけるシロシビンの5-HT2AR刺激作用の役割、およびそれに関わる神経基盤については不明である。そこで、本研究では、5-HT2AR刺激薬による抗うつ作用の発現と、それに関わる神経ネットワークについて検討した。
方法 
6~8週齢の雄性C57BL/6Jマウスに、5-HT2AR刺激薬であるDOI(0.1 mg/kg)を腹腔内投与した24時間後に、うつ様行動を調べる目的で強制水泳試験(FST)を行った。FSTにおいて、マウスは、水を張ったビーカー内に泳がせた際、逃げられないと感じ、次第に無動となる。その持続時間をうつ様行動の指標とした。また、5-HT2AR刺激薬の抗うつ作用に関わる脳領域を調べるため、神経細胞活動性の指標であるc-Fos染色を実施し、5-HT2AR mRNA(Htr2a)の局在を調べるためにIn Situ Hybridizationを行った。また、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてHtr2a-shRNAを脳内に発現させ、Htr2aのノックダウンを行った。関連脳領域からの神経投射先を探索するために、逆行性神経トレーサーであるコレラ毒素(CTB)を脳内に微量投与した。
結果 
マウスへのDOI処置は、コントロール群と比較し、FSTにおける無動時間を有意に短縮し、抗うつ様行動を誘発した。さらに、ストレス関連脳領域である外側中隔核(LS)のc-Fos陽性細胞数を有意に増加させた。さらに、5-HT2AR刺激によって増加するLSでのc-Fos陽性細胞の約80%が、5-HT2ARを発現するGABA作動性神経であることがわかったため、Htr2a-shRNAによりLSの5-HT2ARをノックダウンしたところ、DOI投与によるFSTでの無動時間の短縮、およびLSにおけるc-Fos陽性細胞数の増加が抑制された。さらに、視床下部前野(AHA)にCTBを微量投与したところ、LSのc-Fos陽性細胞においてCTBのシグナルが認められた。
考察 
本研究より、5-HT2AR刺激薬処置は、LSからAHAに投射する5-HT2AR発現GABA作動性神経を刺激し、GABA神経を活性化させることで抗うつ作用を発揮することが示唆された。以上から、LS-AHA神経回路におけるGABA作動性神経の活性化が新たな抗うつ薬の治療標的として有用である可能性がある。