一次知覚神経に豊富に発現するCav3.2 T型Ca2+チャネルは、疼痛および掻痒の発現に関与することが報告されている。我々は、気体メディエーターのH2Sが、Cav3.2のチャネル活性を亢進させることで難治性疼痛の発症に関与することを明らかにしている。一方、定型抗精神病薬pimozideは、ドパミンD2受容体遮断作用に加えて、強力なT型Ca2+チャネル阻害活性を有することが知られており、我々はpimozideがCav3.2依存性の内臓痛を抑制することを最近報告している。さらに、pimozideの構造展開研究により、T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2受容体遮断活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5を開発した。本研究では、H2S供与体Na2Sをマウス頬皮内へ投与した場合に誘起される痛みおよび痒み反応の特徴を解析し、このモデルを用いて、定型抗精神病薬のうちT型Ca2+チャネル阻害活性を有するpimozideと同活性のないhaloperidol、さらにKTtp-5の作用を評価した。C57BL/6J野生型マウスにおいてNa2Sの頬皮内投与後60分間に痒み(投与側頬を後肢で引っ掻く行動)および痛み(投与側頬を前肢で拭う行動)反応が認められたが、これらの反応はCav3.2ノックアウトマウスでは見られなかった。ICRマウスの頬皮内にNa2Sを投与した場合にもT型Ca2+チャネル依存性の痒みおよび痛み反応が認められた。そこで、pimozide、haloperidolあるいはKTtp-5を30分前に腹腔内投与し、Na2S誘起掻痒および疼痛反応に対する作用を調べた。その結果、pimozideとhaloperidolはいずれも0.3 mg/kg以上で痒みと痛みを強く抑制したが、同用量でカタレプシー(異常姿勢保持)反応を誘起した。一方、KTtp-5を10 mg/kgの用量でICRマウスの腹腔内へ投与したところ、カタレプシーは全く誘起されず、Na2S頬皮内投与により誘起される痒みおよび痛み行動は強く抑制された。以上より、T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2受容体遮断活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5は、錐体外路症状を誘起することなくCav3.2依存性の掻痒および疼痛を抑制することが明らかとなり、新たな鎮痒・鎮痛薬となり得る可能性が示唆された。