【目的】Cav3.2 T型Ca2+チャネルの阻害薬は、神経障害性疼痛や内臓痛の治療に応用できる可能性が示唆されている。定型抗精神病薬pimozideは、ドパミンD2受容体 (D2R) 遮断作用に加えて、強力なT型Ca2+チャネル阻害活性を有しており、我々はpimozideがマウスの内臓痛を抑制することを報告している。今回は、pimozideの構造展開研究を実施し、D2R遮断作用のない新規T型Ca2+チャネル阻害薬の創製を試みた。【方法】Pimozide誘導体 (KTtp-1~50) を合成し、ヒトCav3.2発現HEK293細胞においてwhole-cell patch-clamp法により測定したT型Ca2+チャネル依存性電流 (T-currents) に対する阻害活性を評価した。また、ラット線条体粗膜分画の [3H]-spiperone結合を過剰濃度のsulpiride存在下と非存在下で測定して調べたD2R特異結合に対する阻害活性を評価した。D2R結合活性が低くてT-currents阻害活性が高かった化合物について、マウスにおいて硫化水素供与体Na2S 10 pmol足底内投与により誘起されるCav3.2依存性機械的アロディニアに対する抑制効果と、中枢D2R遮断によるカタレプシー誘発活性 (異常姿勢保持時間) を調べた。【結果】KTtp-5とKTtp-14はpimozideと同等のT-currents阻害活性を保持しており、IC50値 (μM) はpimozideの0.157に対して、それぞれ0.461および0.153であった。また、pimozideは10 μMで [3H]-spiperoneのD2R特異的結合をほぼ完全に阻害したのに対して、同濃度のKTtp-5の阻害活性は約50%で、KTtp-14は全く阻害活性を示さなかった。マウスにおいて、pimozide 0.8 nmolを側脳室内投与するとカタレプシーが認められたが、KTtp-5と14はカタレプシーを全く誘起しなかった。マウスにおけるNa2S誘起アロディニアは、KTtp-5あるいはKTtp-14を1-10 mg/kgの範囲で腹腔内投与することで用量依存性に抑制された。【結論】T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2R結合活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5およびKTtp-14は、難治性疼痛治療薬として有望である。