慢性ストレスは抑うつや不安亢進など情動変容を誘導し、うつ病など精神疾患のリスクを高める。我々はマウスの慢性社会ストレスモデルを用い、プロスタグランジン(PG)E2 とその受容体EP1が慢性社会ストレスによる情動変容に必須であることを示した。脳内では2-arachidonoylglycerolがmonoacylglycerol-lipase (MAGL) に代謝されて遊離アラキドン酸を生じ、ミクログリアに発現するPG合成酵素cyclooxygenase (COX)-1を介してPGE2産生に至る。MAGL阻害薬は慢性社会ストレスによる脳内のPGE2産生増加とともに抑うつ行動を阻害したが、興味深いことに、不安亢進は抑制されなかった。しかし抑うつ行動と不安亢進のいずれにもPGE2-EP1経路は必須であることから、末梢臓器におけるPGE2-EP1経路の役割が示唆された。本研究では、慢性社会ストレスにおいてPGE2-EP1経路が働く末梢臓器を探索するため、慢性社会ストレスを受けたマウスを[18F]FKTP-MeによるCOX1 PETイメージングに供した。その結果、慢性社会ストレスは脳と末梢臓器におけるCOX-1 PETリガンドの結合能が変化した。その経時的変化は脳と末梢臓器で異なっており、臓器選択的であった。さらに、慢性社会ストレスによりCOX-1 PETリガンドの結合能が減少した臓器で、EP1のmRNA発現量も減少していた。これらの結果は、慢性社会ストレスが脳だけでなく末梢臓器でもPGE2-EP1経路に影響を与えることを示し、この経路を標的としたPETイメージングがうつ病などストレス関連疾患のバイオマーカーとなる可能性を提示している。