D1-1
AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)/O-GlcNAc転移酵素(OGT)クロストークの解明
〇長濱 渚1,2、中川 孝俊1、朝日 通雄1
Nagahama Nagisa1,2, Takatoshi Nakagawa1, Michio Asahi1
1大阪医科薬科大学・医・薬理学教室、2大阪医科薬科大学・医・5回生
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運動療法は、食事療法、薬物療法と共に、主要な糖尿病治療の一つである。運動効果の一つとして、AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)の活性化が挙げられており、インスリンとは無関係に、グルコーストランスポーター4 (GLUT4)の膜移行を誘導し、インスリン抵抗性の改善に寄与している。一方、糖尿病患者は、血糖値が上昇する結果として、タンパク質のO-GlcNAc修飾が亢進している。O-GlcNAc修飾はO-GlcNAc転移酵素(OGT)で酵素的に付加され、糖尿病に合併する心筋や血管内皮の機能不全などに関与している。AMPKはOGTの標的であり、OGTはAMPKでリン酸化されることが報告されているがその詳細は不明である。まずマウス筋芽細胞C2C12を用いて、AMPK活性化薬であるAICAR添加の影響を検討した結果、AMPKのO-GlcNAc修飾が亢進することを見出した。「AMPK/OGTクロストーク」の存在を示唆している。そのAMPK/OGTクロストークを詳細に検討するため、ヒト胎児腎細胞HEK293およびC2C12を用いて、インスリン抵抗性と関連性のあるGLUT4の膜移行を生細胞で解析するため、Glut4遺伝子をC2C12細胞からクローニングし、mCherryタンパク質との融合タンパク質(GLUT4-mCherry)として発現させた。GLUT4-mCherryの発現が予想通り核周囲に認められたため、HEK293細胞及び、C2C12細胞でその安定発現株を樹立した。樹立した細胞では、AICAR及びインスリンによる膜移行が観察された。このシステムを用いてAMPK/OGTクロストークの詳細を明らかにできれば、運動療法の新たなプロトコールの開発につながることが期待できる。
D1-2
Darbepoetin alfaの投与は、運動トレーニングを負荷した雌マウスにおいて、運動持久力を改善する
〇佐和田 真一1、菅野 篤信1、遠 正太1、山田 幸佳2、村居 宏樹1、居場 嘉教1
Sawada Shinichi1, Astunobu Sugano1, Syota En1, Yukika Yamada2, Hiroki Murai1, Yoshinori Iba1
1摂南大・大学院理工学研究科・病態薬理学研究室、2摂南大・理工・病態薬理学研究室
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【背景・目的】Darbepoetin alfa (DPO) などの赤血球造血刺激因子製剤は、ドーピング禁止薬物に指定されているが、赤血球の増加が運動能力を向上させるという知見は限られている。本実験では、遊泳装置を用いた新規持久力評価系を用いて、DPOのドーピング効果を調べた。
【方法】実験には7週齢の雌性FVB/Nマウスを使用し、運動トレーニングを負荷する場合には、強制回転かごを用いた1時間の運動を、週5日間行った。トレーニングの有無による異なる条件で、DPO(10 μg/kg/week, s.c.)を2週間投与した。遊泳試験は週1回行い、前半30分を5 L/minの流量で、5分のインターバルを挟んで、後半30分を7 L/minの流量で、流水口から35 cm地点の到達回数を計測した。持久力に及ぼす運動トレーニングの影響の検討では、マウスを2群に分け、片方の群にのみ、運動トレーニングを負荷し、上記の遊泳試験を週1回行った。運動負荷7週間後に、前脛骨筋および腓腹筋を摘出し、筋肉分解に関連する遺伝子のmRNA発現量を測定した。
【結果】DPOの投与は、運動負荷の有無に関わらず、ヘマトクリット値を顕著に増加させたが、前半30分の到達回数に有意な変化を及ぼさなかった。DPOの投与は、運動トレーニングを負荷していないマウスでは、後半30分の到達回数に影響を及ぼさなかったのに対して、運動トレーニングを負荷したマウスでは、対照群と比較して、到達回数を有意に増加させた。また、同一個体における投与前後の比較では、DPOを投与したマウスにおいて、後半30分の到達回数に有意な増加が認められた。運動トレーニングの負荷は、体重の増加を顕著に抑制し、後半30分の到達回数を顕著に減少させた。また、運動トレーニングの負荷は、前脛骨筋および腓腹筋において、myostatinおよびMuRF1のmRNA発現量を有意に減少させた。
【結論】我々が考案した持久力の評価系において、運動トレーニングの負荷が雌性マウスの持久力を低下させること、およびDPOの投与がこの持久力の低下を改善することが示された。本評価系を用いることにより、ドーピング禁止薬物の効果をマウスで検証することが可能になると考えられた。
D1-3
新たな動物モデルを用いた肝疾患治療薬の探索
〇樋口 愛菜、若井 恵里、小岩 純子、西村 有平
Aina Higuchi, Eri Wakai, Junko Koiwa, Yuhei Nishimura
三重大・院医・統合薬理学
[背景] 肝臓は代謝を担う主要臓器であり、その障害は個体機能低下の要因の一つとなる。様々な肝疾患における病態メカニズムの解明に伴い、新たな治療標的ネットワークの予測が加速する。これらの予測の検証において、遺伝子改変や薬物投与を容易に行うことができ、それらの肝臓における効果を簡便に評価できる動物モデルは有用な研究ツールとなる。
[目的] 肝細胞のアポトーシスを簡便に可視化できるゼブラフィッシュを用いて、薬物性肝障害に対する庇護薬の効果を解析することにより、このアプローチを用いた肝疾患治療薬探索の有用性を検証すること。
[方法] 肝細胞におけるcaspase 3の活性化を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により可視化できるゼブラフィッシュ仔魚(受精後4日目)に、アセトアミノフェン (APAP,10 mM, 12時間) とイソニアジド (INH, 6 mM, 24時間) を投与し、薬物性肝障害モデルを作成した。また、庇護薬としてウルソデオキシコール酸(UDCA, 100 microM)とオベチコール酸 (OCA, 25 microM) をAPAPやINHと同時に投与し、蛍光ライブイメージングを用いたFRET解析により肝細胞におけるcaspase 3の活性を定量化し、UDCAとOCAの肝保護作用を評価した。
[結果および考察] APAP、INHの単独投与によりcaspase 3活性化に伴うFRETシグナルは薬物非投与群に比べて有意に変化し、これらの薬物投与による肝細胞のアポトーシス増加が示唆された。UDCA、OCAを併用投与した場合のFRETシグナルは、薬物非投与群に比べて有意な変化は認められず、これらの庇護薬投与により、APAP、INHによる肝障害が抑制されたことが示唆された。本研究のアプローチは、様々な肝疾患に対する治療薬探索に有用であると考えられる。
D1-4
ミトコンドリア蛋白p13の遺伝子欠損マウスにおけるグルコース恒常性の変化
〇植野 寛貴1、原 さとみ1、松尾 若奈1、橋本 均1,2,3,4,5、新谷 紀人1
Hiroki Ueno1, Satomi Hara1, Wakana Matsuo1, Hitoshi Hashimoto1,2,3,4,5, Norihito Shintani1
1大阪大・薬、2大阪大・院連合小児・子どものこころセンター、3大阪大・データビリティフロンティア機構、4大阪大・先導的学際研究機構、5大阪大・院医・分子医薬
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p13はII型糖尿病モデルマウスの膵島における発現減少を指標に同定されたミトコンドリア局在蛋白質である。これまでに私たちは、p13を膵島に過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製し、本マウスではII型糖尿病下選択的に、平均膵島サイズの増加や酸化ストレスの減少などが認められることを明らかにした。そこで今回私たちは、内因性のp13の機能を明らかにするため、p13の遺伝子欠損(KO)マウスを作製し、その膵内分泌機能を解析した。膵組織切片の組織化学的検討からは、膵臓量の有意な減少が示されたが、膵島数や平均膵島サイズには有意な変化は見られなかった。しかし、膵島を大きさ別に解析すると、切片上において面積0.001 μm2未満となる極めて小さい膵島の数や割合が、p13-KOマウスでは有意に増加していることが分かった。さらに、インスリンやグルカゴン染色の結果から、p13-KOマウスでは膵島面積に対するグルカゴン陽性面積が有意に増加しており、グルカゴン陽性面積をインスリン陽性面積で除した値も有意に増加していた。またグルコース負荷試験を行ったところ、p13-KOマウスではグルコース投与後の血糖値上昇が大きく低下することが分かった。これらの結果から、内因性のp13はグルコース恒常性において重要な働きを担うことが明らかになり、p13-KOマウスのグルコース恒常性異常の分子病態として、膵島のサイズ分布や、膵島内でのα細胞とβ細胞の構成比の異常が示唆された。
D1-5
ラット松果体細胞の電位依存性K+チャネルに対するメラトニンの抑制作用
〇安藤 駿佑、三島 寛貴、鈴木 良明、山村 寿男
Ando Shunsuke, Hiroki Mishima, Yoshiaki Suzuki, Hisao Yamamura
名古屋市立大・院薬・細胞分子薬効解析学
松果体は脳内に存在する内分泌器官であり、ホルモンの一種であるメラトニンの合成・分泌が行われる。松果体より分泌されたメラトニンは、生体内に発現しているメラトニン受容体を活性化することで概日リズムの形成などの様々な生理作用を発揮し身体機能の調節を行う。当研究室ではこれまでに、松果体細胞には電位依存性Ca2+チャネルやCa2+活性化K+チャネル、Ca2+活性化Cl-チャネルが発現し、これらのイオンチャネル活性が松果体機能の発揮に重要な役割を果たしていることを報告してきた。しかし、メラトニン自身の松果体イオンチャネルに対する作用は不明である。本研究では、松果体細胞に発現する電位依存性K+チャネル (Kvチャネル)に対するメラトニンの作用を解析した。
ラット松果体において、リアルタイムPCR法を用いてKvチャネル (Kv1~12)のmRNA発現解析を行った結果、Kv4.2チャネルの高発現が認められた。ホールセルパッチクランプ法を適用し、ラット松果体細胞に脱分極刺激を行ったところ、電位依存性の外向き電流が観察された。この外向き電流はKvチャネル阻害薬である4-アミノピリジン (5 mM)に感受性を有した。これらの結果から、ラット松果体細胞において、Kv4.2チャネルが機能発現していることが示唆された。次に、メラトニン (1 μM)を投与したところKvチャネル電流の抑制が認められた。さらに、メラトニンによるKvチャネル電流の抑制作用にメラトニン受容体が関与するかを検討するため、メラトニン受容体阻害薬であるルジンドール (1 M)存在下でメラトニンの効果を解析した。その結果、ルジンドール存在下においてもメラトニンによるKvチャネル抑制作用が同様に認められた。
本研究より、メラトニンは松果体に発現するKv4.2チャネルなどのKvチャネルに直接作用し、そのチャネル活性を抑制することが示唆された。本研究成果は、メラトニンによる松果体機能調節の解明に有益な情報となることが考えられる。