A2-1
抗精神病薬pimozideの構造展開による新規選択的T型カルシウムチャネル阻害薬の創製:新たな難治性疼痛治療薬の開発に向けて
〇木野 貴博1、笠波 嘉人1、石川 千浩2、高島 康宏1、長南 百香3、岡田 卓哉2,3、関口 富美子1、吉田 繁4、大久保 つや子5、豊岡 尚樹2,3、川畑 篤史1
Takahiro Kino1, Yoshihito Kasanami1, Chihiro Ishikawa2, Yasuhiro Takashima1, Momoka Chonan3, Takuya Okada2,3, Fumiko Sekiguchi1, Shigeru Yoshida4, Tsuyako Ohkubo5, Naoki Toyooka2,3, Atsufumi Kawabata1
1近畿大・薬・病態薬理、2富山大院・理工、3富山大・工・生命工学、4近畿大・理工・生命科学、5福岡看護大・基礎・基礎看護
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【目的】Cav3.2 T型Ca2+チャネルの阻害薬は、神経障害性疼痛や内臓痛の治療に応用できる可能性が示唆されている。定型抗精神病薬pimozideは、ドパミンD2受容体 (D2R) 遮断作用に加えて、強力なT型Ca2+チャネル阻害活性を有しており、我々はpimozideがマウスの内臓痛を抑制することを報告している。今回は、pimozideの構造展開研究を実施し、D2R遮断作用のない新規T型Ca2+チャネル阻害薬の創製を試みた。【方法】Pimozide誘導体 (KTtp-1~50) を合成し、ヒトCav3.2発現HEK293細胞においてwhole-cell patch-clamp法により測定したT型Ca2+チャネル依存性電流 (T-currents) に対する阻害活性を評価した。また、ラット線条体粗膜分画の [3H]-spiperone結合を過剰濃度のsulpiride存在下と非存在下で測定して調べたD2R特異結合に対する阻害活性を評価した。D2R結合活性が低くてT-currents阻害活性が高かった化合物について、マウスにおいて硫化水素供与体Na2S 10 pmol足底内投与により誘起されるCav3.2依存性機械的アロディニアに対する抑制効果と、中枢D2R遮断によるカタレプシー誘発活性 (異常姿勢保持時間) を調べた。【結果】KTtp-5とKTtp-14はpimozideと同等のT-currents阻害活性を保持しており、IC50値 (μM) はpimozideの0.157に対して、それぞれ0.461および0.153であった。また、pimozideは10 μMで [3H]-spiperoneのD2R特異的結合をほぼ完全に阻害したのに対して、同濃度のKTtp-5の阻害活性は約50%で、KTtp-14は全く阻害活性を示さなかった。マウスにおいて、pimozide 0.8 nmolを側脳室内投与するとカタレプシーが認められたが、KTtp-5と14はカタレプシーを全く誘起しなかった。マウスにおけるNa2S誘起アロディニアは、KTtp-5あるいはKTtp-14を1-10 mg/kgの範囲で腹腔内投与することで用量依存性に抑制された。【結論】T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2R結合活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5およびKTtp-14は、難治性疼痛治療薬として有望である。
A2-2
H2S供与体Na2Sのマウス頬皮内投与により誘起されるCav3.2依存性掻痒および疼痛に対する定型抗精神病薬pimozideとD2受容体遮断活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5の作用
〇倉橋 翔太郎1、西山 伊代1、南野 莉那1、木野 貴博1、高島 康宏1、笠波 嘉人1、木野 志織1、西川 裕之1,2、石川 千浩3、岡田 卓哉3,4、関口 富美子1、坪田 真帆1、豊岡 尚樹3,4、川畑 篤史1
Shotaro Kurahashi1, Iyo Nishiyama1, Rina Minamino1, Takahiro Kino1, Yasuhiro Takashima1, Yoshihito Kasanami1, Shiori Kino1, Hiroyuki Nishikawa1,2, Chihiro Ishikawa3, Takuya Okada3,4, Fumiko Sekiguchi1, Maho Tsubota1, Naoki Toyooka3,4, Atsufumi Kawabata1
1近畿大・薬・病態薬理、2扶桑薬品工業株式会社、3富山大院・理工、4富山大・工・生命工学
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一次知覚神経に豊富に発現するCav3.2 T型Ca2+チャネルは、疼痛および掻痒の発現に関与することが報告されている。我々は、気体メディエーターのH2Sが、Cav3.2のチャネル活性を亢進させることで難治性疼痛の発症に関与することを明らかにしている。一方、定型抗精神病薬pimozideは、ドパミンD2受容体遮断作用に加えて、強力なT型Ca2+チャネル阻害活性を有することが知られており、我々はpimozideがCav3.2依存性の内臓痛を抑制することを最近報告している。さらに、pimozideの構造展開研究により、T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2受容体遮断活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5を開発した。本研究では、H2S供与体Na2Sをマウス頬皮内へ投与した場合に誘起される痛みおよび痒み反応の特徴を解析し、このモデルを用いて、定型抗精神病薬のうちT型Ca2+チャネル阻害活性を有するpimozideと同活性のないhaloperidol、さらにKTtp-5の作用を評価した。C57BL/6J野生型マウスにおいてNa2Sの頬皮内投与後60分間に痒み(投与側頬を後肢で引っ掻く行動)および痛み(投与側頬を前肢で拭う行動)反応が認められたが、これらの反応はCav3.2ノックアウトマウスでは見られなかった。ICRマウスの頬皮内にNa2Sを投与した場合にもT型Ca2+チャネル依存性の痒みおよび痛み反応が認められた。そこで、pimozide、haloperidolあるいはKTtp-5を30分前に腹腔内投与し、Na2S誘起掻痒および疼痛反応に対する作用を調べた。その結果、pimozideとhaloperidolはいずれも0.3 mg/kg以上で痒みと痛みを強く抑制したが、同用量でカタレプシー(異常姿勢保持)反応を誘起した。一方、KTtp-5を10 mg/kgの用量でICRマウスの腹腔内へ投与したところ、カタレプシーは全く誘起されず、Na2S頬皮内投与により誘起される痒みおよび痛み行動は強く抑制された。以上より、T型Ca2+チャネル阻害活性を保持しD2受容体遮断活性を減弱させた新規pimozide誘導体KTtp-5は、錐体外路症状を誘起することなくCav3.2依存性の掻痒および疼痛を抑制することが明らかとなり、新たな鎮痒・鎮痛薬となり得る可能性が示唆された。
A2-3
セロトニン5-HT2A受容体刺激薬の抗うつ作用における外側中隔核の役割
〇高羽 里佳1、衣斐 大祐1,2、中齋 玄紀1、渡邊 香輝2、阿知波 瑞紀2、前田 恭佑2、水谷 健人2、早川 昂汰2、吉田 圭介3、間宮 隆吉1,2、北垣 伸治3、平松 正行1,2
Takaba Rika1, Daisuke Ibi1,2, Genki Nakasai1, Koki Watanabe2, Mizuki Achiwa2, Kyosuke Maeda2, Kento Mizutani2, Kota Hayakawa2, Keisuke Yoshida3, Takayoshi Mamiya1,2, Shinji Kitagaki3, Masayuki Hiramatsu1,2
1名城大・薬・薬品作用、2名城大・薬・薬品作用、3名城大・薬・薬化学
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目的
最近の臨床研究から、幻覚薬のシロシビンが、治療抵抗性うつ病患者に対して、即効かつ持続的な抗うつ作用を示すことが明らかとなった。さらに、シロシビンなどの幻覚薬は、大脳皮質の視覚野第Ⅴ層のセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2AR)を刺激し、幻覚作用を誘発することがわかっている。しかしながら、抗うつ作用におけるシロシビンの5-HT2AR刺激作用の役割、およびそれに関わる神経基盤については不明である。そこで、本研究では、5-HT2AR刺激薬による抗うつ作用の発現と、それに関わる神経ネットワークについて検討した。
方法
6~8週齢の雄性C57BL/6Jマウスに、5-HT2AR刺激薬であるDOI(0.1 mg/kg)を腹腔内投与した24時間後に、うつ様行動を調べる目的で強制水泳試験(FST)を行った。FSTにおいて、マウスは、水を張ったビーカー内に泳がせた際、逃げられないと感じ、次第に無動となる。その持続時間をうつ様行動の指標とした。また、5-HT2AR刺激薬の抗うつ作用に関わる脳領域を調べるため、神経細胞活動性の指標であるc-Fos染色を実施し、5-HT2AR mRNA(Htr2a)の局在を調べるためにIn Situ Hybridizationを行った。また、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてHtr2a-shRNAを脳内に発現させ、Htr2aのノックダウンを行った。関連脳領域からの神経投射先を探索するために、逆行性神経トレーサーであるコレラ毒素(CTB)を脳内に微量投与した。
結果
マウスへのDOI処置は、コントロール群と比較し、FSTにおける無動時間を有意に短縮し、抗うつ様行動を誘発した。さらに、ストレス関連脳領域である外側中隔核(LS)のc-Fos陽性細胞数を有意に増加させた。さらに、5-HT2AR刺激によって増加するLSでのc-Fos陽性細胞の約80%が、5-HT2ARを発現するGABA作動性神経であることがわかったため、Htr2a-shRNAによりLSの5-HT2ARをノックダウンしたところ、DOI投与によるFSTでの無動時間の短縮、およびLSにおけるc-Fos陽性細胞数の増加が抑制された。さらに、視床下部前野(AHA)にCTBを微量投与したところ、LSのc-Fos陽性細胞においてCTBのシグナルが認められた。
考察
本研究より、5-HT2AR刺激薬処置は、LSからAHAに投射する5-HT2AR発現GABA作動性神経を刺激し、GABA神経を活性化させることで抗うつ作用を発揮することが示唆された。以上から、LS-AHA神経回路におけるGABA作動性神経の活性化が新たな抗うつ薬の治療標的として有用である可能性がある。
A2-4
幼若期社会的敗北ストレス単回負荷マウスの社会性行動障害におけるGluN2A-ERK1/2シグナル経路の関与
〇吉田 樹生1、鈴木 千晴2、長谷川 章2、谷口 将之2、毛利 彰宏3、𠮷見 陽2,4、尾崎 紀夫4、野田 幸裕1,2
Mikio Yoshida1, Chiharu Suzuki2, Sho Hasegawa2, Masayuki Taniguchi2, Akihiro Mouri3, Akira Yoshimi2,4, Norio Ozaki4, Yukihiro Noda1,2
1名城大・院薬・病態解析学Ⅰ、2名城大・薬・病態解析学Ⅰ、3藤田医科大・院保健・レギュラトリーサイエンス分野、4名古屋大・院医・精神医学
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【背景】幼児虐待などのトラウマ体験は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのストレス関連精神疾患の発症リスクとなる。また、幼児における精神疾患の有病率は15%にものぼることが報告されている。しかし、幼少期におけるストレスの暴露が発達期の脳に及ぼす影響については詳細に検討されていない。グルタミン酸受容体の一つであるNMDA受容体とそれを介する情報伝達系が、PTSDなどのストレス関連精神疾患の病態に関与していることが示唆されている。本研究では、幼若期に社会的敗北ストレスを単回負荷したマウスにおける社会性行動障害の発現にNMDA受容体やそれを介する情報伝達系が関与しているかどうかを行動薬理学的および神経化学的に検討した。
【方法】3週齢(幼若期)の雄性C57BL/6J系マウスに10分間の社会的敗北ストレスを負荷し、翌日に社会性行動試験を行った。非競合的NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンは、社会性行動試験の開始30分前に投与した。社会性行動試験前後のNMDA受容体サブユニット(GluN2A、GluN2B、GluN1)およびNMDA受容体情報伝達系に関与する分子(ERK1/2、CaMKⅡ、Akt)のタンパク質の発現は、ウエスタンブロッティングにより解析した。
【結果】幼若期に社会的敗北ストレスを単回負荷したマウスの社会性行動障害は、メマンチンの急性投与によって緩解された。ストレス負荷マウスの前頭前皮質におけるNMDA受容体サブユニットであるGluN2AおよびNMDA受容体情報伝達系に関与する分子であるERK1/2のリン酸化は、非ストレス負荷マウスのそれらと比較して社会性行動試験後に増加していた。メマンチンは、社会性行動試験後のストレス負荷マウスにおいて認められるGluN2Aのリン酸化の増加を抑制し、行動試験前のERK1/2のリン酸化を増加させることで、行動試験後に認められるERK1/2リン酸化の増加を抑制した。
【結論】幼若期社会的敗北ストレスを単回負荷したマウスにおける社会性行動障害の発現にGluN2A-ERK1/2シグナル経路の活性化が関与し、メマンチンはこの経路の活性を調節することで社会性行動障害を緩解させた。GluN2A-ERK1/2シグナル経路の活性の制御が、発達期におけるストレス関連精神疾患の新たな治療ターゲットとなる可能性がある。
A2-5
Activities of orexin neurons in motivative behavior
〇董 彧弢1、溝口 博之1,2、山中 章宏3、山田 清文1
Yutao Dong1, Hiroyuki Mizoguchi1,2, Akihiro Yamanaka3, Kiyofumi Yamada1
1名古屋大・院医・医療薬学講座、2名古屋大・環医研、3名古屋大・環医研・神経系Ⅱ
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Orexin neurons in the hypothalamus regulate physiological functions, including energy homeostasis and wakefulness, and are also related to motivation. Here, we examined the roles of orexin neurons in motivated behaviors. We measured the activities of orexin neurons related to motivated behavior under the fixed ratio (FR) schedule of a touchscreen-based automated operant task using fiber photometry. For this purpose, AAV-FLEX-hM3Dq-mCherry or AAV-FLEX-GCaMP7s was injected into the hypothalamus of Orexin-Cre rats. We found that orexinergic activation induced an increase of breaking point in a progressive ratio test. Under FR5 conditions in which rats were able to obtain a food pellet by touching the screen consecutively five times, the activity in orexin neurons was increased after the fifth screen touch (after which food would be delivered) but not after the fourth touch. The activity peaked before rats obtained reward, and then decreased after food intake. These observations suggest that the orexin activities changed in motivative behaviors, and that orexin neurons may be involved in craving and reward prediction.